母が亡くなった日

９月９日は私の母が突然、この世を去った日だ。私が２２歳の時、東京・北区西ヶ原の自宅でくも膜下出血を起こし、ほぼ即死状態だったと、あとで知らされた。死亡推定時刻は午前８時３０分ぐらいとされている。

前夜、私は残業で遅く帰宅し早々に２階の自分の寝床に就いてしまった。翌朝、８時１５分ごろ、階下から母が私を起こそうと声をかけてきた。それに対して私は「昨日、残業で遅く帰ってきたから、今日は時間通りに出勤しなくていいんだ」と応えて、また寝てしまった。その会話が母と私の最後の会話になった。その時、階下から母が見ていたNHKテレビの朝ドラ、「おはなはん」のテーマミュージックが聞こえていたのを覚えている。

８時３０分に「おはなはん」が終わったところで立ち上がろうとしたときに発作が起きたのではないかと推定された。母が死んだときにその場に誰も居合わせず、当時、間貸ししていた我が家の店頭部分の小規模な会社に通っていた女性がいつものように「おばさん、おはよう！」と声をかけたが応答がない。ガラス戸を開けたら母が倒れていたのを見て「おばさん！　おばさん！」と大声を上げた。２階で寝込んでいた私はその声の異常さにとっさに跳ね起き、転がるように階段を下って行った。

後の細かいことはあまり覚えていない。目撃者がいなかったということで、警察から一応刑事が来て何か部屋に異常がないかどうか、死に方に不審な点がないかどうかなど調べて行った。しばらく経って、数軒隣の人の家で、母が私のために作っておいた最後の味噌汁を飲んだ時には涙がとめどもなく流れた。