極寒のハイキングトレイルで起きたある“奇跡”
1月19日昼頃のこと、世にも稀な体験をした。私はいつものルージュ・パークの土曜日定例ウオーキングに出かけた。この日は今冬初めての本格的寒波がトロント一帯を襲った日で、気温は氷点下14℃、雪も降っていた。こんな天気にウオーキングに来る人はめったにいない。いつもの距離よりも長く歩き(計2時間29分、10.7キロ)車を止めてあるパーキングまであと10分ぐらいの地点で、前を歩いていた男女のカップルに出会った。凍った地面に雪がうっすらとかぶった急な下り道で二人はちょっと難儀していた。私は簡単なアイゼンを装着した靴を履いているので問題なく進めたのだが、前にいた女性が「お先にどうぞ」と言ったことからちょっとした会話が始まり、同行の若い男性が何と日本から出張でトロントに来ていた日本人であるということが分かった。
人っ子一人いないような極寒のハイキングトレイルで日本人に会えたという驚きでしばし立ち止まって3人の話が始まった。同行のカナダ人女性は男性が日本で勤務している企業のカナダ支社に勤務している人だった。初めてトロントに出張してきた男性が翌日には米国に移動するということから、休日だったこの日、「トロント体験を味わわせてあげたいと思い」ルージュ・パークに案内してきたのだそうだ。
本当の“奇跡”が始まったのはその直後からだった。日本人の青年に「出身はどちらですか」と尋ねたら「東京です」という答え。私が「私も東京で山手線の駅でいうと駒込の近くです」と言ったら、何と彼が「ええっ、私の実家も駒込駅のすぐ近くですよ!」と言ったのでお互いに驚愕。彼が生まれたのはそこではないそうだが、祖母上の代から実家がそこにあり、彼自身、高校、大学時代をその家で過ごしたというから青春の思い出多い街であることは間違いない。霜降橋、霜降銀座、古河庭園、六義園などなど、現地の人間以外にはあまり理解されない場所の名前がトロントの東端の森の中で交差したのだ。何という不思議だろう。奇跡的な出会いとしか言いようがない。
こういうことがあるから人生は面白い。
ところで寒波は翌日、翌々日とさらに厳しくなり氷点下20℃前後を行き来した。